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器物損壊罪での更なるトラブル回避・示談交渉は弁護士へ
1 器物損壊罪とは
他人の物を壊してしまった場合、刑法上、「器物損壊罪」という犯罪が成立します。
刑法261条は「前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。」と定めています。
「前三条」に規定するものとは、次のとおりです。
【刑法258条 公用文書等毀棄罪】
・対象物:公務所で使用、保管中の文書・電磁的記録
・具体例:警察署内の供述調書、市役所の住民登録ファイルなど
【刑法259条 私用文書等毀棄罪】
・対象物:権利義務に関する他人の文書・電磁的記録
・具体例:借用証書、プリペイドカードの磁気情報部分など
【刑法260条 建造物等損壊罪】
・対象物:他人の建造物、艦船
・具体例:家屋、モーターボートなど
このように、258条から260条に定めた物を壊す行為には、別個の犯罪が成立し、261条の器物損壊罪が成立するのは、それ以外の物を壊したり、傷害したりした場合ということになります。
この罪は、故意で行った場合、つまり、わざと壊した場合にのみ成立し、何らかの落ち度や不注意、つまり過失による場合には成立しません。
また、未遂(物を壊そうとしたにとどまる場合)も処罰規定がないため成立しません。
器物損壊の対象となる「物」は、上記3条の対象物を除き、他人が所有する「物」すべてが含まれます。
動産であると不動産(建造物を除く)であるかを問いません。
例えば、家屋を建築するために地ならしを済ませてあった他人の土地を、掘り起こして田畑にしてしまう行為は、器物損壊罪が成立します(大審院昭和4年10月14日判決・大審院刑事裁判例集第8巻477頁)。
他人の所有する動物も他人の「物」に含まれます。
条文にある「傷害」とは動物を殺傷するなどした場合を意味しています(この部分を特に「動物傷害罪」と呼びます)。
なお、動物を殺傷する行為は、いわゆる動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)違反として、器物損壊罪よりも重く処罰されます。
例えば、殺傷した場合は5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金刑(同法44条1項、4項)、動物に外傷が生ずるおそれのある暴行を加えるなどの虐待行為を行った場合は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金刑(同条2項、4項)に処せられます。
器物損壊罪における「損壊」とは、①「物理的に壊してしまう行為」だけでなく、②その物の効用、つまりその利用価値を侵害する行為も含みます。
具体的には、①「物理的に壊してしまう行為」とは、例えば、車を蹴って傷つける、ドアを壊す、窓ガラスを割るなどの行為です。
②その物の効用を侵害する行為としては、飲食店の食器に放尿する、他人のペットを逃がす、壁に落書きや張り紙をする、物を隠匿するなどがあります。
お店は汚された食器をお客さんに出すわけにいきませんから捨てることになるでしょう。
逃げてしまったペットは可愛がることができず、壁の落書きや張り紙の程度は酷ければ美観を維持するという効用が害されたといえます。
【携帯電話の持ち去りも器物損壊罪】
携帯電話のカメラによる撮影を防ぐために、被害者の携帯電話を持ち去ってしまった芸能人が、器物損壊罪で書類送検されたというニュースが話題になったことがあります。
この場合、被害者の携帯電話に対する占有を侵害しているので、窃盗罪が成立しそうです。
しかし、窃盗罪が成立するためには、不法領得の意思(※)が必要であり、撮影を防ぐことだけが目的で、その携帯電話を自分で使おうとか、売ってしまおうなどの意思がない場合には、窃盗罪は成立しないのです。
この場合、持ち去られたことで、携帯電話を使うことができなくなり、本来の効用が害されたものとして器物損壊罪が成立するのです。
※不法領得の意思とは、判例によると、「権利者を排除して、他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従い利用もしくは処分する意思」とされています。
器物損壊罪は被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪です。
被害者が告訴できる期間(告訴期間)は、犯人を知った日から6か月です。
また、器物損壊罪は3年で公訴時効にかかるため、その期間が経過すると検察官から起訴される可能性はなくなります。
2 器物損壊の罪で逮捕されるか
⑴ 器物損壊で逮捕されるケース
器物損壊罪は、刑法で定められている罪の中では、法定刑の範囲を見ても比較的軽微な部類と言えるものです。
なぜでしょうか?
例えば、駐輪場に置いた、お気に入りの自転車(市場価格5万円)を、盗まれてしまった場合と、修理不能に破壊されてしまった場合とを比べてみましょう。
被害者からすれば、どちらも自転車が使えなくなってしまうのですから、5万円の損害であることに変わりはありません。犯人に対する怒り、処罰感情も同じでしょう。
ところが、法定刑は、窃盗罪の方がはるかに重く、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です(刑法235条)。
その違いは、次の点に求められます。
窃盗罪には、(ⅰ)自分の経済的利益を図るという動機がある点で、器物損壊の場合よりも、強い非難を受けるべきであること、(ⅱ)器物損壊に比べて、頻発する犯罪であるため、抑止する必要性が高いことです。
このような観点から、器物損壊罪の法定刑は比較的軽く定められていますが、上に見たように、器物損壊罪によって受ける被害が、必ずしも常に軽微というわけではありません。
「器物損壊罪は軽い犯罪だから、逮捕まではされないのでは?」というのは、単に、被害の程度が軽いケースが多いことから来る誤解です。
数百万円、数千万円単位の価値のある、高額な美術品や高級外車が被害にあった場合を考えれば、容易に想像がつくでしょう。
犯行が発覚すれば、当然逮捕されます。
もっとも、被害額が少ない場合でも、例えば、①現行犯の場合、②同種余罪が多数発覚している場合、③犯行態様が悪質な場合などは、逮捕される可能性が高いです。
まず、現行犯の場合ですが、車や自転車を傷つけている際、その持ち主に取り押さえられ、警察に通報されてしまうような場合です。
現行犯人は誰でも逮捕することができます。
次に、同種余罪がある場合です。
例えば、毎晩、自宅近くの駐車場の車を手当たり次第に傷つけていたような場合です。
また他人の財産を壊すために、他人の家に忍び込んだという場合は、器物損壊罪の他に、住居侵入罪も成立することももちろんですが、器物損壊罪の犯行態様としても悪質性が高いといえますから、まず逮捕されるでしょう。
⑵ 前科を免れる方法
前述のとおり、器物損壊は親告罪です。
親告罪とは、壊された物の持ち主などによる「告訴」という「犯人を処罰してください」という意思表示がないと起訴することができないと定められている犯罪です。
ですから、器物損壊罪は、被害者が告訴をしなければ、または一度した告訴を取り消してもらえれば、たとえ逮捕されたとしても釈放され、起訴されないので有罪とはなりません。
反対に、逮捕されなくても被害者が告訴をすれば、公判請求されて拘禁刑を受けたり、略式起訴で罰金刑となってしまう可能性があります(罰金でも有罪であり、前科がつきます)。
これを避けるためには、被害者の方に謝罪し、その物の損害を弁償し、さらには慰謝料を支払うことなどによって示談を成立させ、告訴状を提出しないようにしてもらい(もしくは取り下げてもらう)、検察官に不起訴処分にしてもらうことが重要です。
被害届は単に犯罪の被害に遭ったという事実を捜査機関に知らせる機能しかないので、被害届が出ていても告訴はないというような場合には親告罪の起訴はなされません。
3 示談を弁護士に依頼すべき理由
では、被害者と示談をするためにはどうしたらいいのでしょうか。
自分自身で話し合ってもいいものなのでしょうか。
結論として、示談は弁護士を依頼し、交渉を任せるべきです。
それは、以下の理由によります。
⑴ 人間関係の問題で難航しがち
器物損壊の場合には、罪を犯してしまった人と被害者との間に人間関係の問題や感情的対立が生じているケースが多々あります。
例えば、騒音やゴミ出しの仕方などでトラブルになっていた近隣住民がいて、その腹いせにその方の自転車を壊したり、ペットに危害を加えたりしたようなケースです。
このような場合、当事者同士では冷静な話し合いができず、さらなるトラブル、例えば傷害事件などに発展しかねません。
さらに紛争がこじれるのを防ぐために、第三者である弁護士に交渉を委ねるのが得策でしょう。
⑵ 示談書の作成も任せられる
上記のとおり、示談をする際には告訴を取り消してもらわなければなりません。
しかし、そのようなことを捜査機関に申し出る書類(取下書)を書いてもらうよう相手方にお願いするのは、被疑者の方では困難です。
被害弁償だけでなく不当に高い慰謝料や理不尽な条件を提示されてしまう可能性もあります。
また、話し合いが成立してもそれを裏付ける書類をどう書いたらいいかも分からないと思います。
弁護士ならば、示談金の相場や示談書の書き方、スムーズな告訴の取下げ等を熟知しています。
その結果、被害者に寄り添った対応で、スムーズに示談を成立させることができるでしょう。
このように、器物損壊事件における示談交渉は、弁護士に任せることをおすすめします。
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